心理学者のメラビアンによると、人の感情は、「態度や表情」「話し方」「話の内容」の三つで他者に伝わるという。
そして、伝わる感情の全体を100%とした時、「態度や表情」が55%、「話し方」が38%、「話の内容」は7%に過ぎないらしい。
要は、人の気持ちというものは、話の内容以上に、話し方や態度・表情に表れるということであろう。
列子によれば、それはカモメにも分かるらしい。
(現代語訳)
海のほとりに、カモメが好きな男がいた。
カモメも男になついており、毎朝、浜辺に行くと、百を超える数のカモメが舞い降りてきて、男と遊んだ。
それを知った男の父が、
「カモメを捕まえてきてくれないか。おもちゃにして遊んでみたい」
と命じた。
翌朝、男はカモメを捕まえようと浜辺に出かけた。
しかし、男がいくら呼んでも、カモメは空を舞うばかりで、男のそばには降りてこなかった。
世に言われるように、真意は、言葉をどんなに飾っても隠すことはできないし、態度をどんなに装っても無駄である。
それは、人の知恵の限界なのである。
出典 (明治書院)新釈漢文大系22『列子』小林信明著 96頁
黄帝第二 第十一章
海上之人、有好漚鳥者。每旦之海上、從漚鳥游。漚鳥之至者、百住而不止。其父曰、吾聞、漚鳥皆從汝游。汝取來。吾玩之。明日之海上、漚鳥舞而不下也。故曰、至言去言、至爲無爲。齊智之所知、則淺矣。
海上の人に、漚鳥(おうてう、かもめ)を好む者有り。
每旦(まいたん)、海上に之(ゆ)き、漚鳥に從つて游(あそ)ぶ。
漚鳥の至る者、百住(ひやくすう)にして止(や)まず。
其の父曰く、吾(われ)聞く、漚鳥、皆汝に從つて游(あそ)ぶと。汝、取り來れ。吾(われ)、之(これ)を玩(もてあそ)ばん、と。
明日(みやうにち)海上に之(ゆ)くに、漚鳥、舞ひて下らず。
故(ゆゑ)に曰く、至言は言を去り、至爲(しゐ)は爲(な)す無し、と。 智の知る所に齊(ひと)しくすれば、則ち淺(あさ)し。