私が研修コンサルティング業界を知ったのは、J社という会社に入社したからである。
そして、未だに、私にとって理想の会社はJ社である。
理由は様々あるが、あえて一つ言えば、J社は決めたことは守った、ということである。
例えば、仕事を受ける場合、前金でなければ決してやらなかった。
ある時、初めての企業から研修の受注があった。
営業担当は、当然、前金を要求した。
その時、企業側から
「初めての取引であり、金だけ取られて研修を実施しないということもあるのでは」
というクレームがついた。
そこで、J社が言ったのは、
「分かりました。それでは当日の研修開始時間である9時までにご入金下さい。ご入金を確認してから、研修を開始します」
というものであった。
また、J社では、毎月一日を全体会議としており、この日には全ての仕事を受けずに、大阪支社を含めて全社員でミーティングを行っていた。
こういったことをやっている企業は多いであろうが、必ずといっていい位、何人かが欠席するものである。
欠席の理由は、当然、お客さまの都合でということである。
しかし、J社では例外を認めなかった。
もちろん、病欠等は別であるが、決して仕事をその日には入れるなというのである。
その他にも、値引きは絶対に認めなかったし、接待交際費も一切認めなかった。
値引きをすれば取れる仕事は沢山合ったし、前金は駄目だということで断られた仕事も多かった。毎月一日は駄目ということで都合が合わずに流れたことも、当然あった。
余程の信念と我慢がなければ、これらの決め事は守れないのである。
当然、これら、ルールの中身については是非もあるだろう。
しかし、決めたことは守るという姿勢には心の底から感銘を受けた。
J社ではよく
「モラルなくしてモラール(士気)なし」
と言っていたが、モラルの基本は決めたことを守るということであろう。
そしてこの言葉通り、私たち当時の社員は、J社に誇りを感じ高いモラールを維持していた。
今も、こういった会社はあるのだろうか?
J社も、すでに当時のような会社ではない。
一抹の寂しさは感じるが、ある時期、本当に素晴らしいと思える会社にいることができたことは、人生の幸福であろう。 そして、一人の経営者として、また、経営コンサルタントとして、当時のJ社のような企業を作り上げなければならないと、改めて考えるのである。