鰥夫(おとこやもめ)、寡婦(やもめ)、独者(ひとりもの)、孤児(みなしご)、という4者は、支えてくれない家族を持たない人たちである。
彼らを助けるのが政治だと、孟子は言う。
古代の聖王である文王は、必ず彼らのことを優先したというのである。
今の時代であれば、貧しい人への生活保護ということだろう。
この生活保護が悪用されているという報道が多い。
また、悪用ではなくても、場合によっては年金よりも有利だと聞く。
一生懸命、年金を払い続けてきた人にとっては、腹立たしい話である。
かといって、本当に困っている人たちを救わない訳にはいかない。
そもそも、年金制度という制度自体に、無理があるのだろう。
ミルトン・フリードマンは、『資本主義と自由』の中で、
「年金の強制加入は、コストばかり大きく、得るところがほとんどない制度である」
と述べている。
その理由として、年金制度が充実しても生活保護を受ける人の数は減っていないということ。
また、年金を扱う政府組織が肥大化し非効率化していくこと。
さらに、強制年金は競争にさらされることが無く、その基金を効率に運用することが出来ない、といったことを挙げている。
つまりは、国による年金制度などを行うよりも、生活保護一本の方が、コスト的にも効果的に優れている、と言うのである。
フリードマンが、この考えを主張したのは半世紀も前のことである。
今の時代を見ると、彼が正しいのではないかと、思えている。
どうにか年金制度を立て直そうとする議論が盛んだが、根本的な疑問として、年金制度というものの是非を問うことも大事ではないだろうか。
一定の税金以外、個人の所得については個人に任せる。
そして、困窮者を助けるというのが、孟子を含めて、古代の賢者の考えである。
出典 (明治書院)新釈漢文大系4 『孟子』内野熊一郎著 60頁
梁惠王章句下
老而無妻曰鰥、老而無夫寡、老而無子曰獨、幼而無父曰孤。此四者、天下之窮民而無告者。文王發政施仁、必先斯四者。
老いて妻なきを鰥(くわん)と曰い、老いて夫なきを寡(くわ)と曰い、老いて子なきを獨(どく)と曰い、幼にして父なきを孤と曰う。
此の四者は、天下の窮民にして告ぐる無き者なり。
文王、政(まつりごと)を發し仁を施すに、必ず斯(こ)の四者を先にせり。