『孔子家語』ブーリン家の姉妹とトマス・モアそして孔子

『ブーリン家の姉妹』は、ナタリー・ポートマンとスカーレット・ヨハンソンが主演した映画である。

舞台は16世紀のイギリスであり、国王ヘンリー八世がその妻と離婚し、ナタリー・ポートマン演ずるアン・ブーリンと結婚する話である。

最近見た新作映画の中では、面白いと思った一作である。

カトリック教会は離婚を認めていないから、この結婚は当時のイギリス社会を揺り動かした大事件であった。

トマス・モアとは、有名な『ユートピア』の作者である。

モアは、この結婚に大反対したため、ヘンリー八世の怒りに触れ、断頭台の露と消えた。

「法の名の下に行なわれたイギリス史上最も暗黒なる犯罪」とされているらしい。

ついでながら、モアの処刑の数年後、アン・ブーリンも反逆罪に問われ、ロンドン塔で断首された。

ただ、アンの子供は王位を継いだ。有名なエリザベス一世である。

先日、「シンデレラ」という記事の中で、『エバーアフター』という映画を紹介した。

実は、この映画で、『ユートピア』という本は、大きな意味を持っている。

ドリュー・バリモア演じる主人公が最も大事にしているのが、『ユートピア』なのである。

少女時代に、亡き父親から、いつも『ユートピア』を読んでもらっていたという設定になっており、王子と出会った時、『ユートピア』の一節を語ることによって、王子に感銘を与えるのである。

この『ユートピア』は、現代の日本を考える上でも、啓発される部分が非常に多い名著である。

古典ではあるが、文章は平易で読みやすい。

岩波文庫から出ているので、手に入れるのも容易である。是非、お勧めしたい。

『ユートピア』の中に、こういう一節がある。

「国王の名誉と安泰を維持するものは、人民の富であって、決して国王自身の財産ではない」

いい言葉である。

そして、思うのは、やはり真理は共通する、ということである。

何故なら、モアよりも二千年以上前に、孔子も、ほぼ似たようなことを言っているからである。

『孔子家語』に、こういう話がある。

魯の哀公が政治とは何かということを、孔子に問うた。孔子は、

「政治とは、民を豊かにして、長生きさせることです」

と答えた。

哀公が、それにはどうすれば良いのかと訊くと、孔子は、

「省力役、薄賦斂、則民富矣」

と述べた。

つまり、税金を安くしなさいということである。

哀公は、「そのようなことをすれば、民は豊かになっても、私が貧しくなってしまう」と難色を示した。

それに対して、孔子は、

「国君は民の父母です。子供が豊かであって、父母が貧しいということは、未だかつてありません」

と、答えたという。

映画や西洋の古典、そして東洋の古典、一見すると繋がっていない事柄が、このように繋がりで発見できた時こそ、私にとっては、思わず一人で笑みが浮かんでしまう至福の瞬間である。 e=