何と言うこともないが、好きな話である。
庾法暢(ゆほうちょう)と言う人が、庾亮(ゆりょう)という東晋の貴族を訪ねた時、麈尾(しゅび、払子のようなものらしい)の立派なものを握っていた。
そのあまりの素晴らしさに、庾亮は、
「これほどの品を何故持っていられるのか」
と尋ねた。
庾法暢の返答が、ふるっている。
「清廉な人は欲しがらないし、貪欲な人には与えない。だから手元にあるのだ」、と。
もっとも、こういう話は、書き下し文で読んでこそ、味わいが深いだろう。
「廉者は求めず、貪者には与えず。ゆえに在るを得る」
出典 (明治書院)新釈漢文大系76 『世説新語 上』目加田誠著 147頁
言語第二
庾法暢造庾太尉、握麈尾至佳。公曰、此至佳。那得在。法暢曰、廉者不求、貪者不與、故得在耳。
庾法暢(ゆほうちょう)、庾太尉(庾亮のこと)に造(いた)るに、麈尾(しゅび)の至つて佳なるを握る。
公曰く、此れ至つて佳なり。那(なん)ぞ在るを得たる、と。
法暢曰く、廉者(れんしゃ)は求めず、貪者には與(あた)へず、故に在るを得るのみ、と。